この1年間で人工知能(AI)が急速に普及する一方で、フェイクニュース、雇用喪失、ディープフェイクによる世論操作、偏ったアルゴリズムなど、多くの懸念が生まれています。
しかし、こうした不安の裏側には、AIが科学技術の進歩を加速させ、大きな社会課題に挑むための力となり得るという「明るい側面」も存在します。特にヘルスケア、なかでも製薬およびライフサイエンス分野では、AIが莫大なコストと長い期間、そして数々の失敗がつきものの創薬プロセスを変え始めています。
- 新薬開発には通常 10年以上 かかり、費用は 20億ドル を超えることもあり、市場に出るのは 10個中1個程度 にすぎません。
- Insilico Medicine や Exscientia のような企業は、AIを活用して通常 3〜6年 かかる探索・前臨床段階を大幅に短縮し、 18か月 や 11か月 で成果を出したケースもあります。
- データ品質、AIの「ブラックボックス問題」、そして規制の追いつきなどが、創薬におけるAI活用の主要な課題となっています。
従来の創薬パイプライン
伝統的な医薬品開発は、非常に複雑で時間のかかるプロセスです。まず科学者たちは、疾患に関与する標的(多くはタンパク質)を特定するところから始めます。こうした標的タンパク質は、複雑にねじれたり折り畳まれたりした構造を持っています。研究者はコンピュータプログラムを使って、標的タンパク質のデジタルモデル(立体構造)を画面上で可視化します。これがいわゆるin silicoモデリング(インシリコ・モデリング) です。 そして、新しい化合物が結合できそうな「ドッキングスポット」を探します。まるで船が停泊場所を探すようなイメージです。こうして設計された化合物は、一つひとつ原子レベルから構築されていきます。
化合物が合成されると、研究者は次にそれを生きた細胞に対して試験します。しかし、その結果はしばしば期待外れになります。細胞が大量に死んでしまうこともあり、原因が特定できない場合も多くあります。生物学的システムは極めて複雑であるため、実験薬の挙動は予測が困難なのです。そのため、科学者たちは何年にもわたって化合物の改良や調整を繰り返さなければなりません。
長い研究期間を経ても、有望だった化合物が 発がん性、有害な副作用、他の薬剤との相互作用、長期的な耐性の形成、免疫学的問題 などの理由で開発中止となることも珍しくありません。
運が良ければ、研究者は前臨床段階で十分に効果を示す化合物を見つけ、ようやく臨床試験へと進むことができます。
従来型の創薬プロセスを示す3つの厳しい現実
- 期間:初期探索から承認まで 10年以上
- 費用:1つの薬を市場に出すまでに 20億ドル以上
- 成功率:臨床試験を通過して承認されるのは 約10分の1
このように、高リスクで試行錯誤に頼る従来のアプローチは、創薬を産業界で最も資源集約的な取り組みのひとつにしています。
しかし、AI、特に 大規模言語モデル(LLM) や 生成AI の技術は、このプロセスを根本から再定義する可能性を秘めています。
それは一夜にして革命を起こすような劇的な変化ではないかもしれませんが、ワークフロー全体において 着実で意味のある改善 をもたらすことが期待されています。
AIによる創薬への道のり
1981年、フォーチュン誌の表紙には、コンピューターが創薬をより良い方向へ変えるだろうという見出しが踊っていました。記事では、科学者たちがどの分子を試験すべきかを判断するためにコンピューターの可視化技術を利用している様子が紹介されていました。確かにコンピューターは創薬プロセスに変化をもたらしましたが、薬剤開発における最大の課題は、マウスをクリックするだけで消えるようなものではありませんでした。科学者たちは、当時の最新技術であったニューラルネットワークが患者データの中からパターンを見つけ出し、なぜ治療が効く人と効かない人がいるのかを説明できるのではないかと考え始めました。そして年月が経つにつれ、AIは医療記録のパターンを見つける以上のことができると認識されるようになりました。
転機となったのは2020年です。DeepMindが開発したAIシステム「AlphaFold」が、タンパク質が最終的にどのように折りたたまれるかを予測できることを証明したのです。このAIは、アミノ酸配列からテンプレートや進化的に関連する配列を活用し、タンパク質の三次元構造を決定するという、長年科学者を悩ませてきた問題を解決しました。この研究および開発の功績は高く評価され、2024年のノーベル化学賞受賞にもつながりました。
では、AIによる創薬は実際にどのように機能するのでしょうか。
創薬に関わるそれぞれの化合物(薬剤分子、添加剤、懸濁液やコロイド系の成分など)は、化学構造やSAR(Structure-Activity Relationship)、薬物動態(PK)と薬力学(PD)、そしてADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)といった特徴を持つデータポイントとして扱われます。これらの化合物は、膨大なデータセットを用いたハイスループットスクリーニングによって解析され、さまざまな数値データが用いられて評価されます。
例えば、候補となる薬剤は、標的への結合の強さ、体内での挙動、安全性、安定性、そして効果の可能性といった観点から評価されます。モデルが適切に訓練されれば、治療効果が似ている分子や化学的特徴が近い分子ほど、計算空間上で互いに近い位置に配置される傾向があります。
医薬品開発の各段階におけるAIの変革
標的の特定
標的の特定とは、どの遺伝子やタンパク質が疾患に関与しているかを明らかにするプロセスです。AIは、複数の層から構成される膨大で複雑な生物学的データセットを同時に処理し、統合します。
言い換えると、AIはこれらすべての情報をまとめて解析し、ある化学構造やタンパク質構造をどのように変化させれば、あるいはどのような特性を持たせれば、特定の疾患に対してより有効になるのかを包括的に理解します。このような全体的で相互に関連した視点を、膨大すぎるデータ量を前に人間の研究者が手作業でまとめるのは極めて困難です。
業界事例
例えばアストラゼネカは、従来型の創薬というより遺伝学・データ解析寄りの例ですが、2026年までに最大200万件のゲノムを解析する計画を発表しています。目的は、病気の進行や治療反応に関連する微細な遺伝的変異を特定することです。この膨大なゲノムデータを処理できるのは、AIが大規模データを効率的に扱えるからです。
分子生成
この段階では、AIは既存の化合物ライブラリをスクリーニングするだけではありません。AIはデ・ノボ設計や分子ドッキングを行い、まったく新しい分子を生成・評価します。ここでは、推論機能を持つLLMベースのMoEモデルや科学用途向けマルチエージェントAI、その他の生成モデルが活用されます。既存分子のハイスループットスクリーニングに加え、AIは独自の新しい分子構造を生成することもできます。
AIは分子を生成しながら同時に最適化も行います。薬効(ポテンシー)だけでなく、安全性やADMET特性など複数の要素を同時に最適化できるのです。GAN(敵対的生成ネットワーク)や強化学習(RL)などの高度な手法は、このようなデ・ノボ創薬に特に有効で、反復学習によって特定の目的に適した分子を生成・評価します。
業界事例
Insilico Medicineは、特発性肺線維症という肺疾患に対する新規候補薬をAIプラットフォームによって開発しました。標的決定から前臨床試験に進める候補分子ができあがるまで、わずか18か月でした。ExscientiaはPKC-Thetaという標的に対する高活性阻害剤をAI設計プラットフォームで11か月で創出しています。従来なら前臨床段階だけで3〜6年かかることを考えると、これらの期間は従来では考えられない短さです。
ただし、これらの期間はおもに探索と最適化のフェーズ、つまり標的を決めてから有望な候補分子ができるまでの部分に対応します。正式な臨床プロセスの開始前までの話です。
合成
AIの役割は計算科学だけに留まりません。ラボ実験とAIを循環させる「lab-in-the-loop」アプローチによって、物理的な合成段階にも影響を与えます。実験データ、ラボ検証、臨床データなどがAIモデルの再学習に使われ、改善されたモデルはより良い予測を行います。例えば化合物の特性や合成ルートの予測などです。そしてその予測が再びラボで検証され、新しいデータが生成され、またAIが学習するという、予測・検証・改善の継続的なループが形成されます。
業界事例
IBMは「RXN for Chemistry」という化学反応予測AIを開発しており、ディープラーニングを使って合成に適した反応経路を提案します。AIは化学者が思いつかないルートを提示することもあり、数か月分の計画作業を節約できます。
臨床試験
患者が参加する後期段階でも、AIは大きな効率化をもたらします。
- 臨床試験プロトコルの設計最適化
- どの患者が薬に反応しやすいか、副作用リスクが高いかを予測し、層別化を支援
- 初期データから試験結果を予測する
このようにAIは臨床段階でも効果を発揮します。
創薬におけるAIの広範な導入を妨げる課題
AIがもたらす可能性は非常に大きく、AIによって発見された分子がすべての臨床フェーズを完了できる確率は、従来の5〜10%から約9〜18%へと改善すると予測する見方もあります。しかし、現在のところAIが設計した医薬品はまだ市場に到達していません。Recursion や Insilico など一部企業はフェーズII試験まで進んだ候補化合物を持ち、安全性も示していますが、それでもなお根本的な疑問が残ります。
もしAIがそれほど有用なら、なぜすべての薬がAIで開発されていないのか、ということです。
その理由には、主に3つの課題があります。
- データ品質。 AI、とくにディープラーニングモデルは、大量で高品質、かつ多様なデータを必要とします。しかし、生物学的データはしばしばノイズが多く、一貫性がなく、不完全です。さらに、データが企業内部の独自サーバーに閉じ込められているケースもあります。このようにデータが不十分だったり偏っていたりすると、AIモデルの予測は現実世界で正確性や信頼性を欠くことになります。質の悪いデータは、質の悪いモデルと不正確な予測を生み出します。
- ブラックボックス問題。 AIがどのように判断に至ったのか、そのプロセスを理解できない場合があります。ある特定の分子が効果的だと予測した理由や、安全性に懸念を示した理由をモデルの内部から完全に追跡するのは非常に難しい、あるいは不可能なこともあります。医学のように人命が関わる領域では、解釈不能性や透明性の欠如は信頼性と説明責任に対する不安につながります。また、規制当局にとっても大きな障壁です。薬剤を承認する前に「なぜその判断に至ったのか」を理解する必要があるためです。
- 規制の適応。 AI関連技術の進化は非常に速く、規制の整備が追いつけていません。特に医療データのような機微情報の扱いでは、データプライバシーに対応した新しい枠組み、創薬に使われるAIモデルの検証方法、データの完全性の確保、倫理的問題への対応などが必要です。EUでは2024年にAI法が正式に採択され、国際基準の整備に向けて大きな一歩となりました。しかし、これはまだ進行中のプロセスです。
まとめ
AIを創薬プロセスに活用することは、医療における最も困難な課題のひとつに対してゲームチェンジャーとなりつつあります。アルゴリズムが数か月で新薬候補を生み出すという話は信じがたいものですが、Insilico Medicine や Exscientia の事例が示すように、私たちは本当に大きな転換点に差しかかっているのかもしれません。
とはいえ、期待を過剰に膨らませすぎるべきではありません。これはすべての病気を一瞬で解決する魔法の技術ではなく、時間のかかるプロセスを大幅に改善しうる強力なツール群だと捉えるべきでしょう。
よくある質問
従来の創薬プロセスは非常に長く、費用も高額で、1つの薬を開発するのに10年以上、約20億ドルかかることもあります。生化学者たちは無数の試行錯誤を繰り返し、原子レベルで化合物を調整しながら有効な候補を探します。一方、AIを活用した創薬では、アルゴリズムが巨大なデータセットを解析し、数か月で新しい分子を生成することが可能になります。また、安全性、薬効、ADMET特性など複数の要素を同時に最適化することもできます。
AI創薬プラットフォームには、臨床試験の最適化を支援する機能が増えつつありますが、従来の臨床開発そのものを置き換えるものではありません。AIは患者層別化や試験デザインをサポートしますが、複雑な臨床データ管理や規制当局への申請プロセスを全て担えるわけではありません。
はい。機械学習は複雑な分子データの解析や治療効果の予測に特化しており、AI創薬プラットフォームの中核的技術です。
分子データとは、薬物化合物に関する化学的、構造的、生物学的な情報のことで、特性、相互作用、生体標的への影響などを含みます。
分子標的とは、タンパク質や経路など、治療介入の対象となる生物学的エンティティのことです。計算手法や機械学習によって特定・解析され、創薬において治療的に重要な標的を迅速に見つけるための中心的役割を果たします。
計算創薬とは、分子の特性や生物学的相互作用を解析し、その結果に基づいて薬剤候補を設計・最適化する方法を指します。分子、タンパク質、治療用化合物などの化学構造データを用いて行われます。
企業や公的機関を取り巻くグローバル環境は、今、根本的な変容を遂げている。かつて戦略立案の土台となっていた「予測可能な市場」「実効性のあるルール」「平時と危機の明確な境界」といった前提は、もはや通用しなくなりつつある。
パワー・ポリティクス(大国間政治)、技術的非対称性、サイバー作戦、そして情報戦。これらはもはや特殊な事象ではなく、戦略環境における「日常の風景」となった。不安定さは、一時的に対処すれば済むような状態ではない。組織が自らの中に組み込み、前提として向き合うべき「永続的な現実」なのである。
本稿では、現代における高強度紛争およびハイブリッド戦争の典型的な事例として、ロシア・ウクライナ戦争から得られた教訓を検証する。現地で収集された知見に基づき、将来起こりうる紛争に備えるべく、政府機関や民間組織が実践すべき具体的な提言を定義した。
本記事は、以下の4つの主要分野に整理して提言を行う。
- 事業継続ガバナンス:企業は、自社固有のリスクを特定し、事業継続計画(BCP)および戦略に反映させる必要がある。
- 従業員の安全:現代戦争において民間人保護が著しく弱体化する中、従業員の安全確保は組織の重要な責務となっている。
- 拠点施設と重要インフラ(ユーティリティ):物理的な拠点施設のレジリエンス(復旧力)を強化するとともに、不可欠な公共インフラへの依存度を精査し、運用停止に直結する重大なリスクを評価・管理する。
- サイバーセキュリティリスク:最も一般的かつ即時性の高い脅威はサイバー攻撃である。ウクライナ企業の多くは、業種や役割に関係なく、国家的属性だけで標的となってきた。
事業継続ガバナンス
真に実効性のある備えは、経営戦略の根幹から始まる。組織が直面するリスクを直視し、自社の事業拠点に軍事紛争が及ぶ可能性を冷徹に把握しなければならない。
最も重要な提言は、地政学的不安定性およびハイブリッド脅威を「例外」ではなく「常態」として扱い、年次で包括的なリスク評価を実施することである。リスクシナリオは、ハイブリッド戦争、サイバー作戦、経済的強制、情報戦など、現代紛争の実態に基づいて策定されるべきであり、過去の経験や従来のベストプラクティスに依存してはならない。
特定されたリスクは、体系的に事業継続およびレジリエンス計画へ落とし込み、高度な不安定状態や武力紛争下でも重要業務を維持できる体制を構築する必要がある。
さらに、経済制裁、国境封鎖、規制の不確実性、動員、重要インフラの停止といったシナリオに対して、事業モデルのストレステストを定期的に実施すべきである。
復旧戦略では、特定の国・サプライヤー・輸送ルートへの依存度や、公共インフラ停止の影響を明示的に評価する必要がある。1か月以上に及ぶ中核業務の停止も想定し、継続・復旧計画に反映させなければならない。
また、危機下でも迅速かつ有効な意思決定が可能となるよう、承認・エスカレーションプロセスを簡素化した事業計画が求められる。
情報・影響工作が高度化・増加する中、組織に影響を与え得る外部の情報環境を常時監視し、評判リスクや情報リスクに対処するための迅速なコミュニケーション計画を準備しておくことも重要である。
総じて、事業継続戦略は恐怖を煽るものではなく、備えとレジリエンスの文化を育むものであるべきであり、従業員がリスク、役割、対応手順を理解し、「この組織は逆境下でも機能し続ける」という確信を持てるようにすることが、組織の真の強さとなる。
従業員の安全
不安定な状況下において、いかに重要人材を繋ぎ止められるか。これは、組織の長期的な存続と業務継続を左右する最重要課題である。
そのため、従業員の安全確保と、キーパーソン依存を解消するための事前計画は、組織の中核的な備えと位置付けるべきである。これには、重要職務の特定、後継・バックアップ体制の整備、知識や意思決定権限が特定個人に集中しないようにすることが含まれる。
同様に、逆境下でも意思決定を継続できるマネジメント体制を維持することが不可欠である。リーダーシップの継続性は、急速に変化する不安定な環境における適応力とレジリエンスの要である。
以下に、戦時下における従業員安全および組織の備えに関する一般的な提言を示す。
1)連絡先情報と通信体制の整備
最新の従業員連絡先情報の維持は不可欠であり、以下を含むべきである。
- 携帯電話番号
- 個人用メールアドレス
- 自宅住所
- 緊急連絡先(近親者または指定代理人)
また、緊急時の迅速な連絡体制を確認するため、コールツリー(緊急連絡網)訓練を定期的に実施すべきである。これは軍事紛争に限らず、あらゆる危機における事業継続計画に有用である。
2)事業継続および人員バックアップ計画
重要職務、キーパーソン、指定バックアップの包括的な一覧を整備すべきであり、以下を含む。
- 重要人材の特定
- 各重要職務に対するバックアップ指定
- 主担当およびバックアップの動員リスクの考慮
各重要職務には、少なくとも1名、法的免除(年齢、性別、健康状態など)により動員対象となる可能性が低い人材を含めるべきである。
グローバル展開している組織では、他国にバックアップを配置することが望ましい。場合によっては、重要人材の一時的または恒久的な移転も検討すべきである。
3)リモートワークおよび自律型在宅勤務環境
可能な限り多くの従業員がリモートで業務遂行できる体制を構築する必要がある。また、以下のような自律型在宅勤務環境の支援も検討すべきである。
- 電力レジリエンス:太陽光パネル、ディーゼル/ガソリン発電機、蓄電池、モバイルバッテリー
- 通信:Starlinkなどの衛星インターネットを含む代替接続手段
高リスク地域では、企業がこれらの機器を調達・配布することも有効である。
4)軍事行動が活発な期間の安全対策
- 従業員の安全、所在地、動員状況を継続的に把握
- 前線地域や高リスク地域から、より安全な地域や海外拠点への移転
5)応急手当および安全訓練
戦時運用への備えとして、以下の訓練が有効である。
- 基本的な応急手当・救急対応
- 空襲、砲撃、ドローン・ミサイル攻撃時に対する身の守り方。
施設および重要ユーティリティ
すべての組織は、物理的施設が利用できなくなる状況に備えなければならない。施設の損壊・破壊、立入制限、軍事行動による長期的なユーティリティ停止が発生し得る。
可能な限り業務を分散し、リモート実行できる設計とすることが重要である。単一拠点への人員集中は避けるべきであり、現代紛争では民間施設が標的となるリスクが高まっている。特に極超音速ミサイルなどの場合、空襲警報の事前警告が不十分なことも多い。
施設レジリエンスと継続要件
分散型インフラ
- 自社データセンターを運用する企業は、以下を検討すべきである。
- ネットワークから切り離した遠隔地バックアップ
- 紛争関与が想定されにくい国のクラウドへの部分移行
- EOL/EOS機器・ソフトウェアの更新によるサイバー防御強化
分散オペレーション
- 重要機能の単一拠点依存を排除
- リモートワークと地理的分散チームの実現
- 業務の迅速な拠点間移行能力
ユーティリティ耐性
- 電力:燃料確保済み非常用発電機、蓄電システム
- 通信:衛星通信など独立した回線
- 暖房・空調:冬季および長期停止への対策
警報・避難体制
- 全館で聞こえる空襲警報
- 明確な避難経路と定期的な点検
- 全員収容可能なシェルター容量
シェルター・防護空間
- 地下駐車場や専用シェルターへのアクセス
- 電力、通信、座席、簡易作業環境の確保
- 4~8時間以上の長時間滞在に耐える設計
必需品
- 飲料水・保存食の備蓄
- 医療・衛生用品
- 水道停止への備え
心理的支援
- 長期ストレスや空襲体験に対する心理支援の提供
サイバーセキュリティ防御
開戦以来、ウクライナの公的機関や民間組織がさらされているサイバー攻撃の激しさと頻度は、想像を絶する水準にある。重要なのは、サイバー攻撃は本格的な武力行使が始まる前から、ハイブリッド戦の一環として開始されるという点だ。これは、国家や組織のレジリエンス(抵抗力)をあらかじめ削いでおくための予備工作である。
以下は、戦時に強化すべき主なサイバーセキュリティ分野である。
1)脆弱性管理
組織は、以下を含む成熟した脆弱性管理プロセスを確立すべきである。
脆弱性の特定:
- ソフトウェアおよびハードウェアベンダーから公開される脆弱性の監視
- セキュリティ研究者や集約された脆弱性フィードによるアドバイザリの追跡
- 以下の脆弱性スキャンの実施:
- 内部ネットワーク
- 外部公開システム
スキャンの実施頻度:
- 内部および外部資産の両方に対し、少なくとも月次(monthly)で実施
- 可能な限り、日常業務の一環として継続的に実施
ペネトレーションテスト(Penetration testing)は、実攻撃をシミュレートするために年次または半年ごとに実施すべきである:
- 外部ネットワーク・ペネトレーションテスト
- Active Directoryペネトレーションテスト
修正期限(SLAs)は、以下のベストプラクティスに従うべきである:
- 緊急(Critical)な脆弱性:1〜2週間以内
- 重要(High)な脆弱性:1ヶ月以内
- 中程度(Medium)の脆弱性:2ヶ月以内
- 低(Low)程度の脆弱性:3ヶ月以内
即時の修正が不可能な場合は、補完的コントロール(代償策)を実装しなければならない。ネットワークの隔離や隠蔽(Obscurity)だけに頼るのでは不十分である。脆弱性の深刻度に応じた定期的なパッチ適用を徹底する必要がある。
2)資産管理
組織は、以下について明確かつ完全なインベントリ(目録)を維持しなければならない。
- IT資産
- ネットワーク機器
- ハードウェアおよびソフトウェア
- クラウドのリソース
効果的な資産管理は、シャドーIT(管理外の機器)を排除し、脆弱性管理、監視、およびインシデント対応を行うための土台となる。
3)ネットワーク・セキュリティ
推奨される対策(コントロール)は以下の通りである。
- 適切に設定された次世代ファイアウォール(NGFW)
- 侵入検知システム(IDS)および侵入防止システム(IPS)の配備
- ネットワークベースのマルウェア検知(NBMD)の有効化
- パケットインスペクションの活用による、データ漏洩防止およびマルウェア検知の強化
徹底したネットワーク分離(Strict network segmentation)を、特に以下の間で実施すべきである。
- 管理部門と製造部門のセグメント:産業制御システム(ICS)を保護するため。これには、監視制御システム(SCADA)、分散制御システム(DCS)、およびプログラマブルロジックコントローラ(PLC)ベースの制御システムが含まれる。
4)エンドポイント・セキュリティ
すべての端末は、以下のソリューションを用いて保護されるべきである。
- Endpoint Detection and Response (EDR) または Extended Detection and Response (XDR) また、エンドポイントは以下の通り安全に構成(設定)されるべきである。
- ディスク暗号化の有効化
- USBポートの制限または無効化
- ユーザーへのローカル管理者権限の剥奪
- 多要素認証 (MFA) の徹底
- 強力なパスワードポリシーの適用
- リモート接続デバイスに対する条件付きアクセスポリシーとVPNの利用
追加の対策:
- エージェントベースのデータ漏洩防止 (DLP)
- クラウド・アクセス・セキュリティ・ブローカー (CASB) ソリューション(適用可能な場合)
5)物理機器の安全確保(奪取・紛失対策)
戦時下においては、機密情報を含むデバイスが以下のような事態に陥ることを前提としなければならない。
- 紛失 (Lost)
- 押収 (Seized)
- 敵軍による奪取 (Captured by hostile forces)
奪取された機器は、解析のために敵国のサイバー部隊へ渡される可能性がある。したがって、組織は以下の対策を確実に講じる必要がある。
- サーバーを含むすべてのデバイスにおけるフルディスク暗号化
- リモートワイプ(遠隔消去)およびデバイスの無効化機能
- 機器の紛失や侵害が発生した際の、明確なインシデント報告・対応手順
6)設定管理(コンフィギュレーション)
全システムにおいて、安全な設定基準(ベースライン)を確立し、維持すべきである。CIS Benchmarks 等のフレームワークを土台として活用できる。
可能な限り:
- 設定状況を継続的にモニタリングすること
- 重要な設定は、権限のない変更を拒絶する構成、または不変(イミュータブル)な状態にすること
7)ログ収集とセキュリティ監視(SOC)
効果的なログの収集と分析は不可欠である。組織は以下を行うべきである:
- 自社またはアウトソーシングによる セキュリティオペレーションセンター(SOC) の運用
- SOCの体制として、最低でも週5日8時間、望ましくは24時間365日を確保すること
インシデントの検知、および迅速な調査・対応を可能にするため、すべての重要システムからログを収集しなければならない。
SOCを外部委託する場合、組織は以下を行う必要がある:
- サービスの質を能動的に監視すること
- 以下のようなコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を維持すること:
- 予備のプロバイダーの確保
- 自社内での限定的な監視能力の保持
8)トレーニングと意識向上
定期的なサイバーセキュリティトレーニングは不可欠であり、特に以下に重点を置くべきである:
- フィッシング対策(Phishing awareness):認証情報の奪取は、依然として最も一般的な攻撃手法であるため。
- 適切な対応と報告に関する指針
四半期(quarterly)ごとの模擬フィッシングキャンペーンの実施を推奨する。
情報戦(information warfare)の蔓延を踏まえ、以下を含めることも推奨される:
- 情報戦への対抗:プロパガンダや偽情報(disinformation)を識別し、対抗するための指針。
結論:レジリエンスはもはや選択肢ではない
国際規範の形骸化にともない、影響力を行使する手段として、再び「武力、強制、威圧」が容認される場面が増えている。法的な枠組みや道徳的な制約は、剥き出しの力学(パワー・ダイナミクス)へと取って代わられ、経済的な相互依存関係そのものが「武器」として利用されている。
同時に、急速な技術革新は、従来の安全保障や防衛に関する前提を揺るがしている。サイバー攻撃、ドローン、偽情報工作、破壊活動といった「低コストかつ非対称な手段」によって、今や民間企業や公的機関も、その規模に見合わない甚大な被害を受けうる時代となった。物理的施設、データセンター、デジタルインフラ、あるいは重要人材。これら一点に集中した資産は、経済・社会に最大限の混乱をもたらそうとする試みにおいて、格好の標的となっている。
この環境下では、適応力こそが決定的な優位性である。事前の強さよりも、いかに素早く学び、業務を調整し、圧力下で新たな防御策を展開できるか、その能力が成功を左右する。
備えと積極的なリスク特定は、時間と柔軟性をもたらし、真にレジリエントな組織の基盤となる。今日において、レジリエンスは防御コストではなく、戦略的能力であり、競争優位の源泉である。
ELEKSが提供できる支援
ELEKSはウクライナに大規模な事業基盤を持ち、本稿で述べた課題に日常的に直面し、克服してきた経験を有している。
当社の専門家は、サイバーセキュリティ、事業継続、リスク管理、組織の備えに関する実践的なコンサルティングおよび実行支援を提供する。
提供サービス例
- 事業継続計画の策定・テスト
- セキュリティテストおよび攻撃シミュレーション
- サイバーセキュリティ態勢評価・監査
- リスク評価およびシナリオ分析
- 研修・能力開発プログラムの設計と実施
ご要望があれば、日本向けにさらに自然な論文調・政策提言調へのリライトや、要約版の作成もできます。
ELEKS社のコミットメントとエンゲージメントには、最初から好感が持てました。彼らは最高の人材を連れてきて、我々の状況やビジネスアイデアを理解しようとしてくれ、最初のプロトタイプを一緒に開発してくれました。彼らは非常にプロフェッショナルで、顧客志向の姿勢を持っていました。ELEKSがなければ、このように短期間で成功した製品を作ることはできなかったと思います。
ELEKSが持つ幅広い知識と理解は、その専門知識を活用してお客様に優れた成果物を提供することを可能にしています。ELEKSと仕事をするということは、本国全体のトップ1%の適性とエンジニアリングの卓越性を持った人たちと仕事をするということです。
ELEKSは、当社の消費者向けウェブサイトやモバイルアプリケーションの開発に携わっています。これらのアプリケーションは、当社の顧客が簡単に貨物を追跡し、必要な情報を得て、当社と連絡を取り合うことができるようになっています。ELEKSの専門知識、対応力、細部への配慮を高く評価しています。